「タワマンの勝者」はオーナーではなく賃貸人という残酷な真実
資本主義社会における「成功の象徴」として語られるタワーマンション。かつては、相続税評価額の歪みを利用した「タワマン節税」という錬金術が存在し、富裕層たちはこぞってコンクリートの塊を買い求めた。
しかし、国税庁という名のゲームマスターは、このバグを放置しなかった。2024年のルール改正により、市場価格と評価額の乖離を利用した節税スキームは、事実上の死を迎えたのである。
さて、ここで冷静になって考えてみてほしい。節税という甘い蜜を吸えなくなった今、数千万円、あるいは億単位の借金を背負ってまで、変動リスクのある資産(不動産)を所有する合理性がどこにあるのだろうか?
今回は、この歪んだ不動産マーケットにおいて、賢明な個人投資家やマイクロ法人オーナーがいかにして「タダ乗り(フリーライド)」すべきか、その最適解を語ろう。
情弱なオーナーが提供する「歪んだ福祉」
まず理解すべきは、日本の不動産賃貸市場がいかに「借り手有利」に設計されているかという点だ。
新築や築浅のタワマンを購入するオーナーの多くは、投資のプロではない。彼らは「将来の値上がり」や「ステータス」という実体のない物語に陶酔し、表面利回りが3〜4%程度しかない物件を平気で購入する。管理費、修繕積立金、固定資産税を差し引いた実質利回りが、インデックス投資の期待リターンを大きく下回っていることにも気づかずに。
これは経済学的に見れば、オーナーによるボランティア活動に他ならない。彼らは巨額の資本コストと資産下落リスクを一人で背負い、入居者に対して「市場価格よりも遥かに安い賃料」で極上の住環境を提供してくれているのだ。
賢いプレイヤーは、この構造を利用する。リスク(所有)は他人に押し付け、果実(居住)だけを享受する。これが「賃貸」という名の最強のサブスクリプションだ。特に、修繕積立金が幾何級数的に跳ね上がる築10年以降のタワマンにおいて、いつでも逃げ出せる「流動性」を持つことは、何物にも代えがたい資産となる。
禁断の果実、「入居者によるオーナーチェンジ買い」
とはいえ、人間には「所有欲」という厄介な本能がある。「自分の城を持ちたい」「好きなようにリフォームしたい」という欲望だ。もしあなたがどうしてもその物件を手に入れたいなら、市場のバグを突いた「アービトラージ(裁定取引)」を狙うべきだ。
その手法とは、「自分が住んでいる賃貸物件を、オーナーチェンジ物件として買い叩く」ことである。
ここに強烈な情報の非対称性が存在する。
オーナーが物件を手放す際、入居者がいる状態(オーナーチェンジ)では、物件は「投資用不動産」として評価される。現在の安い賃料をベースに利回りで計算されるため、売却価格は低く抑えられる傾向にある。
一方で、空室の物件は「実需用不動産(マイホーム)」として評価される。こちらは感情価値が乗るため、価格は高くなる。
ここがポイントだ。あなたが「借主」の立場で、その物件を「投資用価格(割安)」で購入した瞬間、何が起きるか。借主と貸主が同一人物になることで賃貸借契約は消滅し、あなたは手付かずの「実需用物件(割高)」を手に入れることになる。
つまり、買った瞬間に含み益が確定する。これは、世界中で「そこに住んでいるあなた」だけが行使できる特権的なサヤ取り取引なのだ。
仲介手数料という「見えないコスト」をハックせよ
さらに、この取引には「コスト圧縮」の余地がある。不動産売買につきものの「仲介手数料(3%+6万円)」だ。
管理会社や仲介業者にとって、入居者が買ってくれることほど美味しい話はない。広告を出す必要もなければ、週末ごとの内覧対応も不要。融資の心配も少ない。いわば「濡れ手で粟」のボーナスステージだ。
だからこそ、交渉の余地が生まれる。「私が買えば、御社はオーナーからの手数料を確実に確保でき、かつ業務コストはゼロに等しい。ならば、私(買主)の手数料は無料、あるいは格安にすべきではないか?」と。
このロジックに反論できる業者は少ない。彼らは目の前の確実な利益を失うことを何よりも恐れるからだ。
「リフォームの夢」を打ち砕く、快楽順応の残酷な真実
ここまで読んで
「今の部屋は設備が古い。風呂もキッチンも気に入らない。安く買ってリノベしたい」
貴方は今の部屋を購入したいと思ったかもしれない。
…ここでちゃぶ台を返すような結論を提示しよう。
「それでも、やはり買うべきではない」
なぜか? それは「快楽順応(ヘドニック・トレッドミル)」という行動経済学の罠が待ち受けているからだ。
人間は、環境の変化に驚くほど早く適応する生き物だ。
数千万円をかけて最高級のキッチンを入れ、バスルームを最新式に変えたとしよう。最初の1ヶ月は、蛇口をひねるたびにドーパミンが出るだろう。しかし、3ヶ月もすればそれは単なる「生活の背景」に退化する。
逆に言えば、あなたが今感じている「風呂が古い」という不満も、実は大した問題ではないのだ。現にあなたはそこで生活できている。「住めば都」という言葉は、人間の脳が不便さにすら適応(順応)してしまうメカニズムを見事に言い当てている。
「リフォームによる快楽」は一瞬で減価償却される。しかし、「所有によるコスト(税金・修繕費)」は死ぬまで続く。
マイクロ法人の最終結論
そして何より、我々には「経費」という武器がある。
個人でマンションを買う場合、その資金は所得税や住民税を引かれた後の「痛み切ったお金(手取り)」から捻出しなければならない。しかし、マイクロ法人で賃貸契約を結び、社宅として利用すれば、家賃の大部分を「税引前のお金(経費)」で支払うことができる。
もしあなたの法人が利益を出しており、経費枠が余っているのなら、わざわざ法人税を払ってまで利益を確定させ、個人の手取りを減らして不動産を買うなど、狂気の沙汰と言うほかない。
「タワマンを買う」ことの経済的合理性は、マイクロ法人の「社宅スキーム」の前では完全に無力化される。
賢明な読者であれば、もう答えは出ているはずだ。
リスクは他人に取らせ、自分は制度の歪みを最大限に利用して、流動性とキャッシュフローを確保する。
所有という名の呪縛から解き放たれ、身軽に生きることこそが、不確実な時代を生き抜く唯一の生存戦略なのである。


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