「カルロス・ゴーン化」するアメリカ帝国──トランプのベネズエラ空爆と“コストカッター”の末路

社会と価値観

2026年、トランプ大統領がベネズエラを空爆し、マドゥロ大統領を拘束したというニュースを見たとき、既視感を覚えたのは私だけではないはずです。

もちろん、軍事作戦と企業経営は違います。しかし、その根底に流れるロジックは不気味なほど似通っています。私の脳裏に浮かんだのは、かつて日本の自動車メーカーを劇的に再生させ、そして劇的に凋落させた「コストカッター」、カルロス・ゴーンの姿でした。

今回のトランプの暴挙は、まさにアメリカ合衆国の「カルロス・ゴーン化」と呼ぶべき現象です。短期的な数字のために、長年積み上げてきた「見えない資産」を容赦なく換金する。その先に待っているのは、かつての日産が味わったような、構造的な空洞化かもしれません。

PL(損益)を良くするために、BS(資産)を燃やす人々

ゴーン氏が日産にやってきたとき、彼が行ったのは徹底的なコストカットでした。

系列の解体、工場の閉鎖、人員削減。これらはすべて、貸借対照表(BS)にある「長期的関係」や「技術の蓄積」といった無形資産を切り捨てる行為でした。その結果、損益計算書(PL)の見栄えは劇的に改善し、株価は上がり、彼は「名経営者」として称賛されました。

トランプが今やっていることも、これと全く同じです。

「国際法」や「同盟国との信頼」、「法の支配」といった、アメリカが100年かけて築き上げてきた無形資産(ブランド)は、維持するのにコストがかかります。トランプはそれを「無駄な経費」と断じ、ベネズエラへの武力行使という形で切り捨てました。

その結果、手に入るのは「原油価格の低下」や「支持率の上昇」という、これまたPL上の短期的な利益です。有権者はガソリン代が下がって喜び、投資家はエネルギー関連株の高騰に湧くでしょう。しかしそれは、家の柱を薪にして暖炉にくべ、暖を取っているようなものです。

「技術の日産」と「正義のアメリカ」の死

ゴーン改革の代償が何だったか、私たちはすでに知っています。

目先の利益を優先し、研究開発や現場への投資を怠った結果、「技術の日産」というブランドは地に落ちました。革新的な新車は出なくなり、現場のモラルは崩壊し、残ったのは数字合わせに奔走する官僚的な組織だけでした。

アメリカも同じ道を歩むことになるでしょう。「自由と民主主義の守護者」というブランドは、今回の空爆で完全に破壊されました。

世界中の国々は、アメリカを「崇高な理念を持つリーダー」ではなく、「国益のためなら平気で強盗を働くジャイアン」として認識を上書きしました。一度失った信用(ブランド)を取り戻すのがどれほど困難か、ビジネスマンなら誰でも知っています。

グローバルサウスの国々が「脱ドル」を急ぐのは、日産の下請け企業が「いつ切られるかわからない」と他の取引先を探し始めたのと同じ心理です。

焼畑農業の果てにあるもの

ゴーンもトランプも、ある種の天才であることは間違いありません。

彼らは「現在のシステムにある『贅肉(と彼らが呼ぶ長期的資産)』を削ぎ落とせば、莫大なエネルギーが生まれる」ことを本能的に知っています。そのエネルギーで熱狂を作り出し、自身の権力を盤石にする手腕は見事です。

しかし、焼畑農業はいつか終わります。燃やす森がなくなったとき、そこにはペンペン草も生えない荒野が広がるだけです。

ゴーン去りし後の日産が苦境に喘いでいるように、トランプ去りし後のアメリカもまた、誰も信用してくれない孤立した大国として、世界地図の片隅で錆びついていくのかもしれません。

「今だけ、金だけ、自分だけ」。この刹那的なニヒリズムが、一企業の経営戦略を超えて、超大国の国家戦略になってしまったこと。それこそが、21世紀最大の悲劇──あるいは喜劇──なのかもしれません。

クスッと笑うには、あまりにもブラックすぎますが。

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