地方のガソリンが高い本当の理由――「阿吽の呼吸」という名の搾取システムから脱出せよ

フリーランス・開業

「物流コスト」という大嘘

都会から少し離れた地方都市に足を運ぶと、奇妙な現象に出くわすことがある。

ガソリンスタンドの看板だ。隣接する大都市に比べて、リッターあたり10円、あるいはそれ以上高い数字が平然と掲げられている。たった数百キロしか離れていない場所で、なぜこれほどの価格差が生まれるのか。

地元の人間やガソリンスタンドの経営者に聞けば、判で押したようにこう答えるだろう。「ここは物流の終着点だから輸送コストがかかる」「離島が多く、平均価格が押し上げられているからだ」と。

もっともらしい言い分だが、経済合理性の観点から見れば、これは「嘘」である。あるいは、真実の一部を拡大解釈して、消費者を煙に巻くための欺瞞と言ってもいい。

なぜなら、物流コストの差など、リッター数円のレベルでしかないからだ。10円以上の開きがあるのなら、そこには物理的な距離ではなく、もっと政治的で、日本的な「歪み」が存在していると考えるのが自然だ。

その正体は何か。結論から言おう。それは「競争の不在」と「阿吽の呼吸」による、事実上の談合システムである。

「黒船」のいない港は平和な地獄

隣の大都市を見てみればいい。そこにはコストコのような外資系の「黒船」や、独立系の激安スタンドがひしめき合っている。彼らは利益を削ってでも客を奪いにくる。仁義なき価格競争の嵐が吹き荒れている。

一方、この地方都市にはそれがない。

地場の企業を守るという名目のもと、あるいは閉鎖的な地域性ゆえに、価格破壊をもたらすプレイヤーが参入してこないのだ。結果、既存のプレイヤーたちは無理に安売りをする必要がなくなる。

「あそこの店がこの値段なら、うちもこれくらいでいいだろう」

密室で話し合う必要すらない。地域の空気を読むだけで、価格は高止まりする。これを経済学では「協調的寡占」と呼ぶが、平たく言えば「仲良しクラブによる搾取」だ。

消費者にとってはたまったものではないが、売る側にとってはこれほど心地よい環境はない。競争というストレスから解放され、高いマージンを確保できるのだから。彼らが守っているのは「地域のインフラ」ではなく、「自分たちの既得権益」である。

賃金カルテルと二重の搾取

さらに絶望的なのは、この「阿吽の呼吸」が商品価格だけでなく、労働市場にも適用されていることだ。

地方の経営者たちは、口を揃えて「景気が悪い」「人が来ない」と嘆く。だが、彼らが従業員の給料を上げるために競争している姿を見たことがあるだろうか。「隣の会社が月給20万なら、うちは18万でも文句は出ないだろう」。ここでもまた、見えない談合が機能している。

高いガソリン代(生活コスト)を払わされながら、安い給料(労働対価)で働かされる。

これが、日本の地方都市にはびこる「地獄」の正体だ。経営者層だけが、高い価格で商品を売りつけ、安い賃金で労働力を買い叩くことで、その差額をポケットに入れている。これを搾取と呼ばずして何と呼ぶのだろうか。

多くの善良な市民は、この構造に気づかないふりをして、「住めば都」と自分に言い聞かせている。だが、数字は嘘をつかない。可処分所得は減り続け、資産形成など夢のまた夢だ。

「希少種」として生き残る戦略

では、この閉塞したシステムの中で、私たち――特に医師という職業を持つ人間――はどう振る舞うべきか。

答えはシンプルだ。「希少種(レアキャラ)」になることである。

私はかつて、大学医局という巨大な「ムラ社会」に属していた。そこもまた、年功序列と横並びの給与体系に守られた(あるいは縛られた)社会主義的な空間だった。どれだけ高度なスキルを持っていようが、どれだけ多くの患者を救おうが、給料は同期と変わらない。

私は10年前にその構造に見切りをつけ、フリーランスになった。

消化器内視鏡の専門医という、代替不可能なスキルセットを武器に、自分で価格交渉を行う道を選んだのだ。周りの医師たちが「医者なんてこんなもの」と思考停止している間に、私は自分の市場価値を徹底的に高め、それを臆することなく提示した。

結果、私の収入は医局時代とは比較にならないレベルに達した。

地方の「阿吽の呼吸」など、私には関係ない。なぜなら、彼らは私(の技術)を喉から手が出るほど欲しているが、代わりはどこにもいないからだ。需要と供給のバランスが崩れている場所では、供給側の交渉力が圧倒的に強くなる。

交渉できない人間は養分になる

残酷なことを言うようだが、現代日本において「交渉できない人間」は、システム維持のための「養分」として扱われる。

ガソリンスタンドで言われるがままの値段を払い、医局や病院の人事担当に言われるがままの給与で働く。それは「協調性がある」のではなく、「搾取を受け入れている」に過ぎない。

地方の高いガソリン価格を見て、「談合ではないか」と憤るのは正しい直感だ。だが、怒るだけでは何も変わらない。その構造を利用する側、あるいはその構造の影響を受けない高みにまで登り詰めなければ、あなたの資産も自由も守れない。

専門性を磨け。代わりの利かない人間になれ。そして、臆することなく交渉せよ。

それが、この美しい国に隠された「地獄」から抜け出すための、唯一のチケットなのだ。

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