医師は「給与」の麻薬に溺れるな。法人で「報酬」を得るゲーム戦略

フリーランス・開業

「腕一本」という名の、心地よい幻想

現代の医師は、自らを「腕一本」で稼ぐ孤高の専門職だと信じている。その神話は、高額な年収と社会的地位によって日々補強され、強固な自己認識を形成している。
だが、それはきわめて都合のよい幻想にすぎない。

皮肉なことに、現代の医師は、そのへんのサラリーマンよりもよほど“会社員的”だ。なぜか。
彼らは「生産手段」を一切所有していないからだ。高額な診断機器、手術室、入院ベッド、そして集患システム。そのすべては病院という巨大な「プラットフォーム」の所有物である。医師は、自らの高度な知識(ライセンス)と引き換えに、そのプラットフォームを使わせてもらっているにすぎない。

そして、そのプラットフォームへの「従属の証」として受け取っているのが、毎月振り込まれる「給与」だ。あなたの生み出す価値のすべてを、時間単位で丸ごと買い上げますよ、という包括的な契約。それが給与所得の本質である。

この構造に気づいた者だけが、次のステージに進む権利を得る。

業務を「商品」に分解せよ

では、どうするか。答えは単純だ。「給与」を「報酬」に変えることだ。
プラットフォームへの「労働力の提供」ではなく、独立した事業者として「成果物(サービス)の提供」を行うのである。

そのために、まずは自分の業務を徹底的に「分解」し、値札をつけ直す必要がある。
普段、あなたが「雑務」や「当然の責務」として処理している業務の中に、いくらでも「商品」は眠っているはずだ。

たとえば、読影。これは「時間」として処理されるべきものではなく、「高精度読影レポート」という商品である。
たとえば、指導。これは「OJT」という無償労働ではなく、「新人医師向け研修プログラム」というパッケージ商品だ。
研修会の講師経営幹部からの経営相談患者導線の改善提案……。

これらすべてに個別の契約書と請求書が存在しうる。あなたが「給与」という名の麻薬に浸っているあいだ、これらすべての価値は病院というプラットフォームに無慈悲に吸い上げられ、あなたの取り分はゼロになる。

「最強の敵」をハックする

ここで、少し頭の回る者が「わかった。法人を作って、病院に請求書を送ればいいんだな」と考える。
残念ながら、その安直な思考は、このゲームの“監視役”である税務当局によって即座にブロックされる。

考えてみてほしい。あなたが常勤医として一つの病院から「給与」を受け取りながら、同時に、あなたが作った法人にも同じ病院から「報酬」が支払われていたら、当局の目にはどう映るか。
「これは単なる給与の偽装だ。社会保険料と税金を不当に回避するスキームだ。否認する
こうして、あなたのささやかな反乱は、重加算税という名の鉄槌によって打ち砕かれる。

給与と報酬が「一箇所」からだけ支払われている状態は、このゲームにおける最大のバッドフラグなのだ。

では、どうすればこの最強の敵を出し抜けるのか。

「常勤」を捨て、「複数」と契約せよ

戦略は、敵がもっとも嫌がる配置を取ることだ。その答えは、「常勤医」の身分を捨てることにある。

「常勤」というステータスこそが、あなたを病院というプラットフォームに縛り付ける「従属の呪縛」そのものだ。
この呪縛を解き、フリーエージェントになる。そして、複数の病院と契約するのだ。

A病院では、週2日の外来業務を「給与」で受け取るが、法人として「読影」を「報酬」で請け負う(読影は自宅で自分のPCで行う)。
B病院では、週1日の検査業務を「給与」で。同時に、「若手指導コンサルティング」を「報酬」で請け負う。
C病院では、「給与」はもらわず、法人の「経営改善アドバイザリー契約」として「報酬」だけを受け取る。

この布陣が何を意味するか、わかるだろうか。

あなたの法人は、複数の取引先を持ち、独立した事業(商品)を営む正当な経済主体として存在する。

特にC病院のように、給与関係のない純粋な取引先があれば、その正当性はより強固となるだろう。

「医業以外」という最強の盾

この戦略をさらに盤石にする方法がある。
それは、病院以外から報酬を得る仕事を、その法人の事業目的に加え育てることだ。

例えばブログでアフィリエイト収入や広告収入を得る。専門知識を活かした書籍を出版し印税を受け取る。株式や不動産投資を行い、配当(家賃)収入を得る。

これらの「病院とは関係のない売上」があなたの法人に計上されると、「病院相手の節税対策法人」としての色合いはさらに薄くなる。それは医療コンサルティング、メディア運営、不動産管理を行う「多角的な事業体(コングロマリット)」となるのだ。

「腕」から「契約書」へ

結局のところ、我々は「腕一本」という神話から卒業しなければならない。

あなたの価値は、あなたの腕(スキル)にあるのではない。そのスキルを、いかなる「契約」と「値付け」でプラットフォーム(社会や病院)に提供するかの「戦略」にこそある。
「給与」という単一の包括契約に甘んじるのは、自らの価値をダンピングする愚かな行為だ。

自分の業務を分解し、商品に変え、法人という器に載せ、複数の取引先と契約する。
自由とは、労働時間からの解放ではない。単一のプラットフォームへの「従属」からの解放である。

その第一歩は、常勤医という安定した「会社員」の身分を、自らの手で捨てる勇気から始まるのだ。

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