残酷なことを言うようだが、世の中の99%の人間は「数字」ではなく「感情」で買い物をしている。
たとえば、あなたの隣人が35年のローンを組んでピカピカの新築タワーマンションを買ったとしよう。「夢のマイホームを手に入れた」と彼は目を輝かせるだろうが、ファイナンスのプロから見れば、それは「国内の特定地域の単一不動産に対し、自己資金の10倍のレバレッジをかけたフルインベストメントのロングポジションを取った」ことに他ならない。
もし友人が「全財産に借金を上乗せして、たった1つの銘柄の株を買った」と言えば、あなたは正気を疑うはずだ。しかし、対象が「家」になった途端、その狂気は「家族への愛」や「男の甲斐性」という美しいオブラートに包まれ、誰もそのリスクを指摘しなくなる。これが「持ち家信仰」という宗教の正体だ。
「素人大家」が支配する地方賃貸市場のバグ
さて、ここからが本題だ。私が暮らす地方都市(といってもそれなりの規模だが)には、興味深い「市場の歪み」が存在する。
都心の超一等地に比べ、地方の高級分譲マンションの賃貸市場は、驚くほど借り手有利な状況にある。なぜか。それは、この国の富裕層(小金持ち)たちが皆、こぞって持ち家を買ってしまうからだ。彼らが購入競争に走るおかげで、高額賃貸物件には空室リスクがつきまとう。
さらに面白いのが、物件のオーナーたちの多くが「金融リテラシーの低い素人」であるという点だ。「転勤になったから」「相続したから」という理由で貸しに出される物件は、厳密な利回り計算などされず、「ローンの返済と管理費が賄えればいい」というどんぶり勘定で市場に放流される。
結果として、本来の資産価値からすれば明らかに割安な家賃で、ハイグレードな住環境が手に入る。これは、経済合理性を無視して家を買ってくれたオーナーたちが、私たち賢明なテナントに対して「家賃補助」をしてくれているようなものだ。このフリーランチを食べない手はない。
マイクロ法人という「30%OFFクーポン」
この「市場の歪み」をさらに拡大させるチートコードがある。それが「マイクロ法人」だ。
サラリーマンが手取りから家賃を払うのに対し、法人を持てば「役員社宅」として経費で処理できる。税制上の適正な賃料(おおむね実際の家賃の10〜20%程度)を個人負担すれば、残りは会社の経費だ。実質的に、家賃という固定費に対して30%以上の割引クーポンが適用されるに等しい。
「素人大家による割安な家賃設定」×「法人税制による割引」。この二重のアービトラージ(裁定取引)こそが、地方都市で資産形成を加速させる最強のエンジンとなる。見栄を張って自分の城を持つよりも、他人の城を安く借りて住み倒す方が、どう考えても合理的なのだ。
ベンツSクラスを降りて、トヨタに乗る理由
同じことは車にも言える。かつて私は、見栄と世間体のためにドイツ製の高級車を乗り継いでいたことがある。
確かに、Sクラスのハンドルを握れば、社会的な「信用」のようなものを一時的に得られるかもしれない。ホテルマンの対応は丁寧になり、後続車は車間距離を空けるだろう。だが、それは「虎の威を借る狐」ならぬ「ドイツ車の威を借る猿」でしかない。
現在、私はトヨタのSUVに乗っている。リセールバリュー、維持費、走行性能。すべてを冷徹に計算した結果、この選択が最もコストパフォーマンスに優れていたからだ。
周囲の「金持ち」たちが1,500万円の高級車で見栄の張り合いをしている横で、私は数百万円の実用車に乗り、浮いた1,000万円をS&P500や全世界株式に投じている。10年後、どちらが本当の「資産家」になっているかは火を見るよりも明らかだろう。
「所有」という重荷を捨て、「自由」を買う
結局のところ、私たちが目指すべきFIRE(経済的自立)とは、何かを所有することではなく、何ものにも縛られない自由を手に入れることではないだろうか。
持ち家は、移動の自由を奪い、流動性を著しく低下させる。高級車は、所有欲を満たす一瞬のドーパミンと引き換えに、多額のキャッシュを燃焼させる。
本当の贅沢とは、いつでも好きな時に、好きな場所へ行ける「軽やかさ」にある。不動産価格の下落リスクも、災害リスクも、すべて大家に押し付け、自分は美味しい果実だけを摘み取る。
マトリックスの主人公ネオのように、世界の仕組み(バグ)に気づいた者だけが、この資本主義ゲームを有利に進めることができるのだ。「持ち家信仰」という集団催眠から目覚め、冷徹な計算式に従って生きる。それが、現代における最も賢い生存戦略といえるだろう。


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