「マイクロ法人を使った社会保険料の節約スキームは、もうすぐ規制される」「マイナンバーで資産も所得も丸裸になるから、こんな脱法行為は通用しなくなる」
SNSやYouTubeを開けば、自称専門家たちがまことしやかに不安を煽っている。国会でも、野党議員がこの「抜け穴」を鬼の首でも取ったかのように問題視し、政府委員が答弁に窮する様子がたまに報じられる。
これからマイクロ法人を設立しようとする医師たちは、こうしたノイズに動揺し、二の足を踏むかもしれない。「せっかく法人を作ったのに、すぐ規制されたら手間と金の無駄じゃないか」と。
しかし、私の結論は揺るがない。「当面の間(少なくとも向こう5年〜10年)、このスキームは安泰である」
なぜそう断言できるのか。それは、この問題が単なる法律の条文ミスではなく、日本の戦後統治機構が抱える、もっと根深く構造的な「バグ」に起因しているからだ。このバグを修正するには、霞が関の官僚組織が、自らの存在意義を否定するような「解体的出直し」をしなければならない。彼らにそんな芸当ができるはずがない。
聖域「標準報酬月額」が生まれた背景
そもそも、なぜ日本の社会保険(被用者保険)は、株や不動産でいくら儲けていても無視し、「給与」だけで保険料を決めるという、奇妙な仕組みになっているのか。
時計の針を戦後間もない頃に戻そう。当時の日本は焼け野原で、国民の大多数は、その日暮らしの労働者だった。資産家などごく一部しかおらず、株式市場も未成熟。人々が手にする唯一の確実な所得は、会社から受け取る「給与」だけだった。
この状況下で、効率的に社会保障の財源を集めるにはどうすればいいか。国は考えた。「会社に給与から天引きさせればいい」。これが最適解だった。会社(事業主)を徴収代行機関として利用すれば、国は手間をかけずに確実に保険料を徴収できる。こうして、給与(標準報酬月額)を基準とする制度が確立した。
だが、時代は変わった。高度経済成長を経て日本は豊かになり、人々は株式や不動産、FX、暗号資産など、給与以外の多様な所得源を持つようになった。しかし、制度の根幹は昭和20年代のまま冷凍保存されている。その結果、「資産数十億円のFIRE達成者が、月5万円の給与で社保の最低ランクにいる」という、現代の歪み(バグ)が生まれたのだ。
厚労省 vs 財務省:仁義なき省庁間戦争
「時代遅れなのはわかった。なら、すべての所得を合算して保険料を徴収するように改正すればいいじゃないか」。論理的にはその通りだ。国会でも度々そのような議論が出る。しかし、これを実行しようとすると、永田町と霞が関を揺るがす、ある巨大な政治的障壁にぶち当たる。
それが、「厚生労働省(厚労省)」と「財務省」の冷戦構造だ。
社会保険制度を管轄しているのは厚労省だ。彼らの手足となって保険料を徴収しているのは「日本年金機構」や「協会けんぽ」といった外郭団体である。彼らのデータベースには、基本的に「誰がどこに勤めていて、いくら給与をもらっているか」という情報しかない。
一方、個人のあらゆる所得(事業所得、不動産所得、配当所得、譲渡所得など)を正確に把握し、徴収する能力と権限を持っているのは誰か。それは、財務省傘下の「国税庁」である。
もし、「全所得ベースで社会保険料を徴収する」という改革を断行するなら、実務上、厚労省は国税庁に頭を下げて、徴収業務を委託しなければならなくなる。「私たちの能力では個人の資産まで把握しきれません。国税庁さん、代わりに徴収をお願いします」と。
これは、厚労省の官僚にとって何を意味するか。それは、年間数十兆円という莫大なカネが動く「社会保険料」という自らの「領土(権益)」と「財布」を、宿敵である財務省に差し出すことを意味する。徴収権を奪われた厚労省は、財務省から予算を配分されるだけの「おねだり官庁」に成り下がるだろう。
プライドが高く、省益確保を至上命題とする官僚たちが、そんな屈辱的な敗北を選ぶだろうか? 答えは絶対にNOだ。彼らは制度の致命的な欠陥を知りながらも、自分たちの権力を維持するために、現状維持を死守しようとする。
官僚の「不作為」が守る黄金の羽根
結果として、国は何をするか。抜本的な外科手術(制度改革)を諦め、ボロボロの体にガムテープを貼るような「対症療法」でお茶を濁すしかない。
例えば、「後期高齢者に限って、一部の金融所得を保険料算定に組み込む」といったガス抜きのような改正や、あまりに露骨で実態のないペーパーカンパニーを個別に見せしめで調査して恫喝する、といった「局地戦」だ。彼らにできるのは、せいぜいその程度なのだ。「標準報酬月額」という制度の根幹が崩れない限り、実体のあるマイクロ法人という要塞は揺るがない。
この国では、「真面目」であることは美徳ではない。それは、思考停止して、官僚機構が提示する不合理な請求書を黙って支払う「養分」になることを意味する。官僚機構の硬直性と、省庁間の冷たい戦争。この巨大なシステムの歪みこそが、我々のようなライフハッカーに「黄金の羽根」を提供し続けているのだ。
制度が変わらない限り、私はこの歪みを利用し続ける。それが、この残酷な世界におけるもっとも合理的な生存戦略なのだから。
次回は、このスキームの最大のリスクである「税務調査」をいかに乗り切るか。調査官を沈黙させる鉄壁の理論武装と証拠作りについて語ろう。


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